冬コミ本に書いたコラムを掲載します。はやぶさ2全面支援です。
詳しい皆様には物足らないでしょうし、内容は考証が甘い箇所があるかもしれませんが、察してください。
「はやぶさ」という、日本の工学実験衛星を知っているだろうか。2003(平成15)年5月9日に旧宇宙科学研究所(現JAXA宇宙科学研究本部)のM-V-5号機で打上げられた衛星だ。
「はやぶさ」は打上げ2年後の2005年10月に目的地の小惑星イトカワに到着、大きさや組成などを詳細に観測して科学的に大きな成果をあげたのみならず、11月には「星の王子様に会いに行きませんか」というキャンペーンの賛同者88万人の名前入りのターゲットマーカ(着陸目標の玉)を目印にタッチダウンを成功させるなどの快挙を成し遂げ、小惑星探査で日本が世界最高レベルに達するための原動力になった。「はやぶさ」が世界に与えた影響の大きさは、数々の受賞歴の他、タッチダウン直後に宇宙探査最先進国のアメリカが「OSIRIS」(オシリス)という「はやぶさ」とほとんど同内容の探査機の開発を始めたことでも窺える。

左:「はやぶさ」 右:OSIRIS
工学実験衛星、と銘打っているように、「はやぶさ」は達成すれば世界初となる技術試験・実証をいくつも盛り込んだ、野心溢れる衛星だ。それは大きく3つに分けられる。
1.工学技術実証(将来の本格的なサンプルリターン探査に必須で鍵となる技術を実証)
2.サンプルリターン技術の確立
3.4つの重要技術の実証(イオンエンジンを主推進機関として用い、
惑星間を航行すること/光学情報を用いた自律的な航法と誘導で、
接近・着陸すること/微小重力下の天体表面の標本を採取すること)
ここで気を付けたいのは、1で「将来の本格的なサンプルリターン探査に必須で鍵となる技術を実証」としていることだ。明言していないが、これはあるロードマップに沿った計画的な惑星探査(プログラム探査)を意図したものではないだろうか。かつて太陽系外に飛び出していったヴォイジャー1号・2号、あるいは火星に人を送るために月を利用する、と考えての月探査など、プログラム探査の実例は多い。
継続して調査をしたり、比較対照できるような星に行って探査をすることは、従来の日本のように1回限りで終わらせるよりも、はるかに高い成果が期待できるのだ。
科学の分野でそうやって発展してきた好例は、天気予報だ。
今日の天気図だけを見て明日の天気を予想することはできないが、数年、数十年と継続して天気図を作り、実際の天気と比べてみることで、「雨の前にはこういう形に雲が出る」「この気圧配置と雲の形だと明日は寒くなる」といった、おなじみの予報が可能になるのだ。
これを小惑星探査に置き換えてみると、ひとつ行って探査しただけでは分からない現象が、いくつかの星に探査機を送って観測結果を付き合わせると分かってくる、と言える。
これから語る「はやぶさ2」というのは、そのための探査機なのだ。
それが今、中止の危機にさらされている。
これはプログラム探査計画が挫折するだけでなく、「はやぶさ」の成果によって日本が勝ち得た「小惑星科学の先進国」という地位をみすみす明け渡すことにもなりかねない。
なぜ今なのか。 それは小惑星に行くことと関係している。「はやぶさ2」が狙うのは1999 JU3という小惑星だ。ここに行くためには、地球と目的地の位置関係から2010年に打上げなければならない。そして、日本では衛星の開発に約5年をかける。すると、2006年度から開発を始めなければならないのだ。本格的な予算は2007年度から必要になるらしい。
そして今年、2007年度は少ないながらも予算が付き(勿論足りないが)開発の一部を始めることができた。しかし来年度以降は未知数で、しかもここに来て打上げにH-IIAを使えなくなった。更に、初代「はやぶさ」打上げに使ったM‐Vは後継機のないまま引退してしまっている。
これが意味するところは、海外から「無料で」ロケットを調達できなければ、計画は泡と消えてしまう、ということなのだ。
無論、ロケットのような最先端技術の塊を、外国がタダで提供してくれるわけがない。取引の代価は──探査機が取得するデータだ。現在、小惑星からサンプルリターンするために必要な科学データを持っている国は、日本しかない。ロケット提供を渋ったがために、貴重なデータやノウハウが海外流出してしまうことになりかねない。手段であるロケットと目的である衛星、この場合重要なのはどちらだろう?
OSIRISの計画書に、こんな文句がある。
OSIRIS mission would survey an asteroid and provide the first return of asteloid surface material samples to Earth.
(オシリス計画は小惑星を探査し「初の」サンプルリターンに挑みます)
「はやぶさ」が「もしかしたら採取できているかもしれない可能性」に賭けている現状では、悔しいが確かにこう言われても仕方ない。だが、鳶に油揚げをさらわれるのはもっと悔しい。
そこで必要なのが国民の声なのだ。応援する声が大きければ、JAXAも国も無視するわけにはいかなくなる。すると予算が付いて「はやぶさ2」計画は実行され、一歩先の小惑星科学と、まだ誰も見たことのない風景を一番初めに見る権利が勝ち取れる。

写真を参照してほしい。日本の探査機が、人跡未踏のごく小さな小惑星におもむき、調査をし、写真を撮った何よりの証拠がある。
何とわくわくすることか。まだ知らぬ土地に旅に出て、素敵な風景や出会いがあったときの感動──!
こんな風景をまた見たいのだ。こんな感動をまた味わいたいのだ。
さあ、未来のために「はやぶさ2」を応援しよう。