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    ASTRO-H「ひとみ」の通信異常発生についてのまとめ
     去る2016年2月17日に打ち上げられた日本のX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)に通信異常が発生しました。
     3月27日18時15分から記者会見が行われ、現状の説明がありました。

     続報は公式後方サイト「ファン! ファン! JAXA!」内のページにて随時アップされています。
    X 線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の状況について(ファン! ファン! JAXA!)

     3月28日11時に報道向け発表があり、ファン! ファン! JAXA!にも掲載されました。
     3月29日19時にJAXAから報道向け発表あり、、ファン! ファン! JAXA!にも掲載されました。
     以下の記事は、JAXA発表、報道関係者のtweet、あるいは関係諸機関の発表をもとに、一部筆者のことばを交えて記しています。上からおおむね時系列順になっています。

     抜け漏れ、ミスにお気づきの場合はお知らせ下さい。以下は追加情報が出たり、後で気づいたことがあった場合に随時追記予定です。

     2016(平成28)年3月26日16時40分の運用から、電波が受信できていない。
     受信した分のテレメトリ解析は完了しておらず、加えて障害発生以降のテレメトリが取れていない。
     ゆえに、以下に記す衛星の状態の多くは状況証拠を集めた結果の推測と心得られたし。

    テレメが前述の通りなので推測であるが、現状は、
    1.姿勢異常発生
    2.それに伴って太陽電池に光が正常に当たらなくなる
    3.発生電力が低下
    4.衛星の電源が落ちる
    5.通信途絶
    というシナリオが考えられている。原因は現段階では不明。
     通信異常発生から現在まで、短時間の電波受信はできたがテレメトリを落とすまでには至っていない。
     また、太陽補足を示す信号(サンプレゼンス)も確認できていない。
     現在のところセーフモードへの移行は確認できていない。なお、「ひとみ」のセーフモードは地球指向で姿勢固定となる。
     観測機器の冷却に使う液体ヘリウムは、衛星の電源が落ちたまま一ヶ月たつと完全に蒸発してしまっている可能性があるが、機械式冷凍機を使うことによってそれと同等の精度は確保できる。
     衛星構体内部の温度分布が正常と異なっている。機器の温度分布を見ると、ある面側のものは本来より低く、他のある面は本来より高い温度となっている。これによって姿勢擾乱が起きたことが推定される。だが、現状どのような姿勢なのかはわからない。
     なお、姿勢は、このまま無制御の状態が続くと長軸に沿って回転するように収斂する。
     高度は、異常発生時刻ごろを境にわずかに下がっている。

     ここから先は地上のお話なので事実。

     衛星には通信速度が速い順にハイゲイン・ミドルゲイン・ローゲインのアンテナが搭載されているが、現在ローゲインアンテナを用いてコマンドを通し、テレメトリデータを落とすべく検討と運用を行っている。
     それぞれのアンテナがどういう役割なのかについては以下を参照。
    ローゲインアンテナはなぜ重要なのか:宇宙機のアンテナについて(togetter)
     復旧運用のために、アンテナと人員(JAXA「ひとみ」チームとメーカー等の技術者、合わせて3~40人規模)の優先割り当てを受け、運用時間を多くとっている。運用に用いるアンテナは、現在のところJAXAの国内外5通信所の6局(国内局は内之浦34m・内之浦20m・勝浦、海外局はサンチャゴ・マスパロマス・ミンゲニュー)である。外国の所有する局を利用する場合は、NASA DSNのゴールドストーンとキャンベラが考えられるが、通信可能時間が劇的に長くなるわけではないので今のところJAXA通信局だけでまかなう方針のようだ。

     現在JAXAでは、理事長をトップとする対策本部を立ち上げ、事態の検討と今後の対策立案を行っている。この、理事長をトップとする対策本部は、今回でJAXA発足以来3度目の立ち上げとなる。1回目は「みどりII」(ADEOS-II)の異常発生時、2回目はH-IIA F6打ち上げ失敗時で、ともに2003年のJAXA発足直後のことだ。

     次の記情報発表は3月28日午前11時をめどに行われる予定。

    追加:3月27日23時54分のアメリカのJSpOP(アメリカ国防総省戦略軍統合宇宙運用センター)の情報が気にかかる。悪い知らせであり、色々推測できそうな内容だが、JAXAの公式情報を待つ。
    (暫定訳>JSpOCはIDをもつ二つの物体について分離したであろうことを確認:SL-12ロケットブースタ(33472)01:45UST、21個。ひとみ(ASTRO-H 41337)08:20UST、5個。この現象は関連していない。)

    追加:2016年3月28日(月)11:00発表梗概
     「ひとみ」はまだ通信復旧できていない。それ以外は新情報なし。米国JSpOCの「5つに分離した」発表(上記引用参照)については、発表された分離確認時刻以降も短時間ではあるが「ひとみ」からの電波が受信できたので、因果関係を確認中。

    追加:3月28日夜の「ひとみ」可視パスにて撮影に成功した方がいた。


     ナショナルジオグラフィック(米国)オフィシャルブログでは、動画が公開されていた。写真以上に明滅が不規則な様子がわかるので、以下のリンクからぜひ見ることをお勧めする。
    Video Shows Troubled Japanese Spacecraft Tumbling in Orbit(National Geographic)
    タイトル直訳:軌道上でタンブリング問題を抱えた日本の宇宙機のビデオ

     ということで、光度変化が見られることから、「ひとみ」はスピン(回転)していると考えられる。
     スピンしていると考えられる理由は以下の通り。
    1.正常ならば同じ明るさの一本線で写るはず
    2.しかし写真だと明滅している
    3.明滅するということは、衛星が光を反射する能力に変化があるということ
    4.光の反射強度は面積によって変わる
    5.地上から衛星を見て面積の変化があるということは、スピンしていると考えられる
    6.なぜならば、「ひとみ」は以下の画像のような形をしており、どの方向から見るかによって形が変わる、すなわち見た目の面積が変化するからである
    1c26fa2e48f1b0b517c872361c979f8c.jpg
     常に機体がスピンする姿勢は、通常の「ひとみ」運用では取らせない姿勢だ。外的にせよ内的にせよ、何らかのモーメントが加わった事象が考えられるが、原因はやはり明らかになっていない。
     また、上記写真では先だって報じられた「5つの物体が分離した」事象について、分離した物体は映り込んでいない。ただしこれは映り込んでいないことをもって破片が小さいとは直ちに言えない。時間が経つと「ひとみ」本体から離れていってしまうためだ。ただ、本体がはっきりと映り込んでいる以上、レーダーに反応するくらいには大きい(5cm角)が、空中分解と言うには小さいものだったと推測している。
     また、分離を報じたJSpOCからは続報が出た。
     (暫定訳:ASTRO-Hのブレークアップ(分離)は01:42USTプラスマイナス11分に発生)

     3月29日19時にJAXAから報道向け発表が出た。内容は以下の通りであるが、電池は尽きていなかった模様。
    http://fanfun.jaxa.jp/topics/detail/7243.html
     28日(月)22時頃に内之浦で、29日(火)0時半頃にサンチャゴで電波を受信したものの、いずれも極めて短い時間の受信で、衛星の状態は確認できなかった。日本宇宙フォーラムの美星スペースガードセンター(岡山県井原市)の望遠鏡で「ひとみ」を観測し近傍に2つの物体を確認済み。同じく上齋原スペースガードセンター(KSGC)のレーダでは美星で確認した物体のうち1つを確認している。なお、サンチャゴで受信できた電波は、KSGCで観測した物体の軌道方向からのものであることを確認した。
     JAXAとしては、JSpOCが公表している情報および今回の通信異常との関係について引き続き確認中。

     米軍筋よりの「タンブリングはデブリ衝突が原因ではない」という見解が、あちらのwebニュースサイトに載りました。
    U.S. Air Force: No evidence malfunctioning Japanese satellite was hit by debri(SPACE NEWS)
    (タイトル訳>米空軍:日本の人工衛星の異常な挙動はデブリ衝突だという形跡がない)
    U.S. military rules out collision as cause of Hitomi satellite’s woes (SPACEFLIGHT NOW)
    (タイトル訳>米軍は「ひとみ」衛星の災難の原因として衝突を除外した)

     4月15日の定例記者説明会で、姿勢異常からパーツ分離に至るまでの予測シナリオが発表された。
     予測であって、確認された事象ではない。
    以下の説明は
    X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の状況について(4月15日更新)
    にある記者説明会資料のPDFに基づいて筆者が書いたものだ。

     3月26日、活動銀河核観測のため、姿勢変更。
     姿勢変更終了後、姿勢制御系の異常な動作によって、「ひとみ」は実際には静止しているはずの機体が回転していると誤判断した。
     誤判断に基づき「ひとみ」は、機体を静止させようとリアクションホイール(RW)を回した。
     実際には静止していた機体は、ここでRWを動作させたことによって、回転を始めた。

     誤った姿勢情報に基づきRWを回した。当然、これによって姿勢が正しくなる(静止する)はずはなく、RWはやがて制御可能な上限に達する。
     RWには性能の限界値がある。この数値に近くなった場合、別の手段を用いて姿勢制御をし、ホイールの回転数を正常値に保つ機能が組み込まれている。別の手段とは、磁気トルカと姿勢制御用スラスタの噴射である。
     このうち、磁気トルカは姿勢異常のために正常に働かなかったと考えられる。

     やがてRWは上限値を超える。こうなったとき、「ひとみ」はRWに異常が発生したと自律判断し、緊急モードに入るようになっている。名前はスラスタセーフホールドモード(RCS SH)という。これは、姿勢制御用スラスタの噴射によって太陽指向するモードだ。
     この時もRCS SHに入ったと推定できるが、この時に使ったスラスタの制御に関わる数値(制御パラメータ)は間違ったものであった。それによって誤った噴射を行い、かえって衛星の回転を加速させてしまった。
     そして、回転によって生じた力で、構造的に回転に弱い部分が分離した。分離した部分としては、太陽電池パネルの一部や伸展式光学ベンチ(EOB)が想定されている。

     では、なぜこれが起こったのか。
     「ひとみ」の姿勢検知は、二つのセンサによって行われている。
     ひとつはスタートラッカ(STT)。これは、星の位置を検出して現在向いている方向を決めるものだ。位置の変わらない星を指標に使うので正確。けれど星の見えない状況では使えない。具体的には地球を向いている場合などが想定できる。
     もうひとつは慣性基準装置(IRU)。これは、実際に衛星にかかった加速度と方向計測し、「この方向にこのくらいの力が加わったから、今こっちを向いているはずだ」と計算する機械だ。計算結果には僅かに誤差があり、時間によって誤差は蓄積していく。けれどSTTが使えない状況では役に立つ。
     IRUの誤差は、STTが再び星を捉えられるようになったときに、STTの値に基づき補正する。ただし、両者の示す姿勢の誤差が1度を超えた場合は、IRUが優先されることになっている。

     通常はこの二つを組み合わせて姿勢検知を行う。だが、今回はなぜかSTTの数値を取り込まない状態になってしまい、IRUの持っていた誤差のある数字のみで制御を行ったと考えられる。具体的にはZ軸周りに21.7度ズレていた。21.7度のズレを補正しようと「ひとみ」は姿勢制御を試みたのだが、実際にはズレていないことから回転を始めてしまったのであった。

     問題点は2つ。
    一つ目、STTが補正に使えなくなっていた。
    二つ目、RCS SH時の制御パラメータに間違った数字が入っていた

     この二つによって「ひとみ」は姿勢回復が出来ず、回転したままになった。
     速い回転だったので機体が耐えきれず、一部が分離。しかし通信系は生きており、分離後も電波を捉えることが出来た。
     現在はなおも衛星が回転していることから太陽電池に充分な光が当たらず、バッテリが枯渇していると考えられる。

     2016年4月28日、JAXAは「ひとみ」(ASTRO-H)の復旧の可能性はないと判断、運用継続を断念した。
     久々に開いた日本のX線天文学のひとみは、早々に閉じられることとなった。残念である。
     断念に至った理由は以下の通り説明された。

    ・太陽電池パドルが両翼とも根元から分離した可能性が高いこと
    ・3/26、27、28に各1回ずつ受信した電波は周波数が違い、「ひとみ」のものではなかったと判断される
    ・よって現在は全電力を失い、復旧の見込みはないと考えられる

     さすがに太陽電池パドルがなくなってしまってはどうしようもない。バッテリーが枯渇しても充電できないし。
     詳しくはリリースを。
    X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)の状況について(4月28日更新)

     驚いたのは、記者会見にて、常田宇宙研所長/JAXA理事が、宇宙研の組織改革が必要と聞けるメッセージを発したことだ。
     さあ、日本の宇宙科学はどうなるのだろうか。これからが正念場だ。

     まことに残念ながら、日本のX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)は、人為ミスからの姿勢異常発生を経て太陽電池パドル完全破断となり、一番重要な電源を失って二度と復活できなくなった。
     この事象を徹底的に解析し、次に活かしていくことを望むものだ。
     対象がいなくなってしまったので、本記事はここでクローズする。

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