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    「だいち」と「だいち2号」と擬人化という神格化
     先週のTBSニュースで、珍しく陸域観測衛星「だいち」(ALOS)が取り上げられました。後継機の「だいち2号」が打ち上がったからでしょうか。運用が終わった衛星がニュースに取り上げられるのはとても珍しいことです。はじめて名付け親になった思い出深い衛星なので、嬉しく思いました。ありがとうございました。

    被災地見続けた「だいち」に奇跡、電源失うも返信


     その中で、気になることがいくつかありました。一つは事実誤認、もうひとつは過度な神格化です。

    ●「すでにバッテリーの電力が限界を迎える中、「だいち」は被災地の状況を記録し続けました」
    ●「これ以上の観測は絶望的」と判断したJAXAは、「だいち」に最後の通信をしました。
     「もう交信しなくてもいいです。電源を止めてください。お疲れさまでした」
    ●それから5か月。流氷の写真を提供してもらっていた海上保安庁は、「だいち」に感謝状を贈ることを決めました。そして、感謝の気持ちをレーザー光に載せて送ることを思いつきました。しかし、電源を失い、位置もわからない相手に、メッセージは届くのでしょうか。
     「狭いレーザーを夜空に向けてあてて、広い砂浜の中の一粒の砂を見つけるような作業になってきます」(海上保安庁海洋情報部 古田明氏)
     奇跡が起きました。「だいち」からの返信があったのです。


     以上が気になった言い回しです。

    ●バッテリーの電力が限界
     「だいち」は5年の設計寿命を少し超えていましたが、運用終了後の評価でバッテリは「5台とも正常、性能劣化なし」とされています。決して限界などではありません。バッテリと密接に関わる太陽電池パドルの発電性能も、仕様上「発生電力7Kw 以上」のところを「発生電力8Kw 以上」であり、潤沢な電力が供給されていました。
     以上のことは、以下の報告書の9ページ(10枚目)に記されています。
    陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)プロジェクトに係る事後評価について(文部科学省/JAXA)

     「だいち」喪失の直接の原因は、太陽電池パドルのトラブル(ショート)です。とりわけ、スリップリング(注1)という部品が原因ではないかと考えられています。
    (注1:太陽電池パドルが回転しても電力が伝わるようにする部品です。太陽電池パドルは、発電効率を上げるため、太陽の方向に向くように回転しますから、この部品が必要なのです。「だいち」は輸入品を使用)

     ではなぜ誤解を招く表現になったかというと、喪失までの経緯と混同し、間違って理解しているのが原因と思われます。喪失までは、
    1. 太陽電池パドル、ショートにより故障
    2. バッテリに電力が供給されなくなる
    3. 危険水準までバッテリが放電する
    4. 衛星、電力低下を感知してセーフホールドモード移行
    5. 電力供給復活せず、通信途絶
    6. 様々な手段を試みるも復活せず、喪失と認定
    という経緯をたどりました。おそらくこの経緯をごちゃまぜにして間違って省略したのではないかと思います。
     確かに「だいち」はバッテリの電力が限界に達して復活しなかったわけですが、それが直接の原因ではありません。そもそも給電=充電されなくなったのですから、どんなにバッテリが大丈夫であっても、充電できなければやがて切れてしまうのです。

    ●「これ以上の観測は絶望的」と判断したJAXAは、「だいち」に最後の通信をしました。
     「もう交信しなくてもいいです。電源を止めてください。お疲れさまでした」

     ニュースにしては過度な擬人化ですね。ここは、「衛星の全ての機能を止める通信をしました。寿命になった衛星は、必ず全機能を停止させることになっています。」でいいんじゃないかなぁ。
     もうすこし詳しく言うと、寿命を終えた衛星は、あとから上がってくる衛星に電波の帯域を譲る必要があるため、必ず「停波(電波の発信を停めること)」という作業をしなければなりません。この箇所は、それを情緒たっぷりに言っているのです。

    下記参考資料では「「だいち」搭載の送信機とバッテリーを停止するコマンドを地上より送信すること。」と説明しています。
    陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の運用終了について(JAXA)

    ●それから5か月~以下
     これも非常な誤解。停波した人工衛星から返信があるわけはありません。
     これは何を言ってるのかというと、
    人工衛星にラストメッセージ! (海上保安庁/第一管区海上保安本部)
    のことです。
     「運用を停止した人工衛星「だいち」に感謝の気持ちをこめた最後のレーザー光線(ラストメッセージ)の伝達を計画し、これに初めて成功しました。」
    というのが発表文。「だいち」に向け、強力なレーザー光線を照射し、それが反射されたのが観測できた、というのが正体です。
    「だいち」は、その機体に距離測定用の「レーザーリトロリフレクタ」(注2)という反射プリズムを搭載しています。この装置は、光の来た方向に正確に反射光を返すものです。海保はこれにレーザーを照射し、反射光を得たのです。
    (注2:レーザー光用の、光がやって来た方向への反射体という意味)
     この作業の難しさは、すでに運用が停まって、姿勢制御をしていない人工衛星の一パーツに正確にレーザーを当てなければならないことにあります。姿勢制御をしていないということは、どこを向いているかわからない、ということです。自分から10メートルくらい離れた場所にいる、くるくる回っている人の手のひらに、狙ってボールを当てることがどれほど難しいかは想像がつくと思います。
     海保はJAXAの協力のもと、それをやってのけたのです。すてきな企画でした。
     ですが、全ては関係者の努力のたまもの。けっして奇跡ではありません。

     宇宙=感動と考えてはいませんか? お涙ちょうだい物と考えていませんか? それはわかりやすく涙と数字がとれる魔法の道具です。
     ですがそれは、人の営為を忘れ去ることになりませんか? 有形無形の知恵の結晶を、安易に消費される、明日忘れる感動で置き換えることにはなりませんか?
     今回はニュースで過度な感動と過度な擬人化(神格化と呼んでもいい)をやってしまったことに、疑問を感じました。擬人化というのは一種の解釈です。それを報道がやっていいのでしょうか。私はそれが、嫌なのです。

     それとは別に、ファンアートや、公式が広報としてやる擬人化があります。これは「そういうもの」として創られ、こちらもそう思って受け止めるわけですから、見ていて楽しいです。好物です。変に誤解されると嫌なので補足。ええ、衛星ズも艦これも好きですとも。

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