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清少納言の「白氏文集」
 読売オンラインのニュースより。

宇宙でナイスショット!? 史上最長記録間違いなし

 【ワシントン=増満浩志】米航空宇宙局(NASA)は17日、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中のロシアの飛行士が22日夕(日本時間23日朝)、船外活動中にゴルフボールを宇宙空間へ打ち放つ計画を発表した。
 これは史上最長距離の打球となる見込みだ。
 ロシアがカナダのゴルフ用品メーカーから受注したコマーシャルの撮影で、ミハイル・チューリン飛行士が同社のクラブを片手で振って、特設の場所から1〜3発のボールを打つ。
 ボールは、通常のゴルフボールと大きさは同じだが、重さは15分の1の約3グラム。NASAは、宇宙空間を漂い続けたボールが将来、ISSなどを傷つける恐れがないか検討してきたが、2〜3日でISSの軌道から外れてしまうので問題ないと結論付けたという。
(2006年11月18日13時34分 読売新聞)
 なるほど、周回軌道と同じ長さのショットならば、間違いなく最長でしょう。すぐに大気圏に突入するとしても、約42565km*周回数の長さになりますね。(地球は半径6378km、ISSは高度400kmの円軌道として概算)地上じゃ不可能な数字です。
 今日、卒論に使う専門書を買いました。「白氏文集」の研究書です。なので、それに関した話を、ちょっと。

 「白氏文集」(以下「文集」と称)は、中国・唐の時代の詩人、白居易(字は楽天)の詩文集です。今風に言えば「白居易全集」みたいなものですが、それが平安時代の初めに遣唐使船に乗って輸入されてきて、あっという間に京のミヤコの貴族たちに広まりました。
 白居易は晩年、ちょっと仏教にハマってしまった時期があるので、それが受け入れやすかったのと、変にしゃちほこばらず、ライトで読みやすい文章だったことが、当時の日本人の感性によっぽどマッチしたのでしょう。

 当時の知識人たちに「文集」が広く読まれていた証拠としては、「枕草子」がよく例に引かれます。(注:11/23記事を訂正。ご指摘に感謝します)

 ある冬の日、中宮・定子とそれに使える女房たちが雪の降り積もった庭を見ている。ふと定子が、
「香炉峰の雪はいかにしてみるのかえ?」
と問いかけた。女房連はまあ普通に答えるのだが、清少納言はついと進み出て、定子の前に垂らされた御簾をまくり上げ、
「こうして見るのでございます」
と答え、たいそう褒められた。

 とまあ、こんなエピソード。
 この時の式部の行動は、「文集」16巻に収められている
「香炉峰下新たに山居を卜し、草堂初めて成り、偶々(タマタマ)東壁に題す五首」
という5つ組の詩のうち、4番目にある一節、
「香炉峰雪撥簾看」(香炉峰の雪は簾(スダレ)を撥(カカ)げて看る)
から出た行動です。彰子も周りの女房達も褒めたというので、これは共通理解があった証拠です。一般教養というレベルで、「文集」は浸透していたのです。
 他にも、紫式部と「源氏物語」が、「文集」をネタにしているのは有名な話。

 「香炉峰〜」の詩は、幸いにしてその全文を知ることが出来ます。(後に掲載)
 しかし残念ながら、式部や他の平安人が読んだだろう「文集」がどんなものであったのか、その全貌を知ることは今では不可能になってしまいました。
「そう言っても「白氏文集」全71巻、今でもちゃんと読めるではないか」
そうおっしゃる向きもあるかもしれません。確かにそれはその通り、71巻の「文集」は現存しますし、図書館にでも行けばたぶん置いてあります。しかしその本文は、平安時代のものではないのです。

 唐の時代、重要な本のほとんどは、まだ写本でしか存在しませんでした。「文集」もこの例に漏れません。この時の作品の配列は白居易自身が決め、詩も文もごっちゃに混ざったものでした。
 時代は下って、宋代(正確には北宋)に、木版本が出来ました。この時は、どうやら白居易の書いたそのままの順番で翻刻したようです。(現物は未発見なのでこれは仮説)
 やがて宋は北半分の領土を奪われ、南に遷都します(南宋)。この時代になると、官吏登用試験の科挙が盛んになってきます。受験者は白氏文集を読むことも必須なのですが、分量が多い上に詩と文が入り交じっていたのでは、いかにも読みづらい。そこで、少しでも読みやすくしようと、前半は詩、後半は文、という順に並び替えてしまったのです。
 その後、中国では写本の配列を持つ「文集」は滅び、木版本にしても北宋時代のものは無くなってしまいました(南宋の時代のものは残っている)。
 日本には、前者は平安時代、後者は鎌倉〜室町時代に伝えられました。
 紫式部が「文集」を読んだ時代、木版本はまだこの世に存在しない(王朝が宋になるのはまだ先のこと)ので、彼女が読んだのは当然ながら写本の系統を引く本文でした。
 けれど、中国から伝わったオリジナルは日本でも滅び、写本系の本文もまた、断片的にしか残っていません。
 辛うじてオリジナルの配列は分かっているのですが、本文は、半分ほどが闇の中。

 そんなわけで、平安知識人が読んだ「文集」はどんな文章だったのか、というのは充分研究する余地があるわけです。答えが出ない問題でもありますが・・・。

 本文が滅んだのに、どうやって「オリジナルに近い」ものが分かるのか、というと、他の作品に引用されている文章を探してくるのです。宋の木版ができる前に「文集」を引用した作品は、当然唐の本文を引用してくるしかないので、その時代に書かれた文章を集めて、引用箇所を探すわけです。

 こうして少しずつ積み重ねていけば、いつかオリジナルに近いモノができるのかなあ、と「白氏文集」の研究者は夢見ているのです。

香炉峰下新卜山居草堂初成偶題東壁 五首(その4)
(香炉峰下新たに山居を卜し、草堂初めて成り、偶々東壁に題す 五首 (その4))

  日高睡足猶慵起  日高く睡り足りて猶ほ起くるに慵(モノウ)し
  小閣重衾不怕寒  小閣に衾(フスマ)を重ねて寒を怕(オソ)れず
  遺愛寺鐘欹枕聴  遺愛寺の鐘は枕を欹(ソバダ)てて聴き
  香炉峰雪撥簾看  香炉峰の雪は簾(スダレ)を撥(カカ)げて看る
  匡盧便是逃名地  匡盧(キョウロ)は便(スナハ)ち是れ名を逃るるの地
  司馬仍為送老官  司馬は仍(スナハ)ち老を送るの官たり
  心泰身寧是帰処  心泰く身寧(ヤス)きは是れ帰する処(トコロ)
  故郷何独在長安  故郷何ぞ独り長安のみに在らんや

 現代語訳
香炉峰の下に新たに小さな隠居所を造って、小さな家ができ、その東の壁に思いつくまま書き付けた五首 その4

 日は天高く昇り、もう十分に眠ったというのに、まだ起きるのがけだるい
 小さな家の中、布団を重ねて掛けているので寒さの心配はない
 遺愛寺から聞こえる鐘の音は枕を立てて(頭を少し高く持ち上げて)聴き
 香炉峰(に積もった)の雪は部屋のすだれを跳ね上げて見る
 ここ匡盧は世間の名声から逃れてくる土地であり
 司馬は老後を送るものに贈られる官職である(注:司馬はいわゆる「名誉ある閑職」である)
 心が安泰で我が身が落ち着いているのは本望だ
 故郷はなんで長安だけになろうか

 その4、というからには1〜5まであるのですが、それはそのうちに。

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神田神保町、古書の街
 ここ何日か、神保町に通い詰めています。
とは言っても趣味ではなく、アルバイトのお話。(趣味との境界線がなかなか曖昧ですが)
 現在、神保町は「古本まつり」(青展)の真っ最中。年に一度のお祭りです。
 手押しワゴンで露店を出して、靖国通り沿いで売ってるのですが、これがなかなか面白い。「本が好き」という一点で一致していても、実にいろんなタイプのお客さんがいるんですね。黙って本を差し出して淡々と買っていく方、ちょっと値引き攻勢をかけてみる方、買うべきか否か、時間をかけてじっくり吟味していく方、ほぼ直感で選んで満足げな方、ちょっとした人間観察です。

 青展は11/1(水)まで。お越しの際は是非当店にお立ち寄りを。にっこり笑ってご案内いたします。

10/31追記:青展の雰囲気、何かに似てると思ったらコミケでした。あれを都市空間レベルに広げたら、そのまんまです。こまいブースが出て、お気に入りの本を探して人が群がる。違いは古本祭りが「商売」だということでしょうか。
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